誠実であるために、テレビ局を辞めた。草莽映像が目指す、ディレクターの信念を貫くドキュメンタリー制作

TBSビジョン、テレビ朝日、NHKと、18年間にわたり3つの放送局を渡り歩いた映像ディレクター・井上大輔。『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』『羽鳥慎一モーニングショー』など数々の花形番組を手がけ、安定した収入もあった中、「本当のことを伝えたい」という目的に向かって、独立を選びました。

そして、2025年4月、株式会社草莽(そうもう)映像を設立。
ここでは、そんな井上に、幼少期から独立に至るまでの軌跡、ドキュメンタリーに対する信念、さらには今後の展望までを伺いました。

目次

先回りしていた幼少期と、ドキュメンタリーの共通点

ーー井上さんは、どんな子ども時代を過ごされていたのでしょうか。

自分のことをあまり喋らない子どもでした。とにかく周りの表情を伺っていましたね。

印象に残っているのは、保育園に通っていた3、4歳の時のことです。両親が共働きで、給食用のナプキンを洗わないまま持たされることがありました。母が保育士さんに注意されるのを見ていた僕は、次の日も「母がまた怒られる」と、給食の前に水道でこっそりナプキンを洗っていました。波風が立たないよう、自分がやればいいと考えていたんです。

ーーお母さんに何か言おうとは、思わなかったんですか?

なかったですね。話すことが面倒でしたし、とにかく大人の顔色を伺って先回りする子どもだったんです。平和主義というか、自分さえ我慢すれば軋轢が生まれないと思っていましたから。

でも、当時の行動は、ドキュメンタリーを撮る時の姿勢とすごく似ているんです。相手が話していることや所作から感じ取ったものを、ナレーションにするとか。言葉と気持ちは裏腹だから、「嬉しいです」と言っていても、悔しい表情を浮かべて絞り出すように放つ姿の裏には、もっと複雑な感情がある。所作やこれまでの歴史を鑑みないと、その人の本来の感情までは表現できないんです。

周囲を観察して動く姿勢は、ドキュメンタリーの世界で生きる今と通ずるところがあると思います。

よこしまな考えが、相手との関係性を決めてしまう

ーー高校生の時には、すでにドキュメンタリーを志していたそうですね。

自分は、目的がないと動けない子どもだったんです。それまでは、サッカー選手になる目標のために学校も勉強も頑張れましたが、その夢が難しいと分かって、「次は何をやろう?」と。

さまざまなドキュメンタリーをNHKなどで見ていたこともあり、そこからテレビ局に入る目標を定めて、受験勉強を始めました。父親が脚本家だったので、ある種の抵抗で、じゃあ自分はノンフィクションかな、と。

ーー学習院大学に進学後、マスコミ研究や映像制作などはしていたのでしょうか?

技術的なことは就職してから学べると思っていたので、ドキュメンタリーのネタになる体験や、インプットに時間を割こうと思い、ボランティアサークルにのめり込みました。いくら技術を学んでも、自分の出すものが空っぽだったら何もできない。ドキュメンタリーには「弱者の視点」というものがあるから、その表現も理解できたらと思っていたんです。

ボランティアでは、人間性の深いところを学びました。当時のボランティア仲間には、”異性と話せるから”というよこしまな動機の人もいて、自分は白い目で見ていた(笑)。でも、ボランティアを受ける側の人は動機なんて関係なく、単純に、やってくれたことに対して「ありがとう」と喜ぶんです。そうか、結局、行動することに意味があるんだと。

同時に、自己顕示欲などのよこしまな考えが、相手との関係性を決めてしまうことにも気づきました。だけど僕は、相手と対等でいたい。その思いは変わらず、ドキュメンタリー制作でも貫いています。

人の人生は、必ずどこか変で、面白い。だから、真摯に向き合いたい

ーーTBSビジョン、テレビ朝日、NHKを渡り歩き、18年ほど映像制作に携わってきましたが、ドキュメンタリーの面白みはどこにあると思いますか?

リアルで、予想もできない面白さがあるところです。こんなことが起こるんだ、こんな行動をするんだ、という予想外のことが起きる。そこに、人生の面白さがつまっているんだと思います。予想通りだとしても「本当にそうだったんだ!」と目の当たりにする感動は、フィクションとは別格なんです!

たぶん、僕がNHKを辞めた話をドラマにしても、あまり感動しない。「最近、そういう人多いよな」って。でも、僕の人生としてリアルを見たら、印象が変わるはずです。事実が乗っかるだけで表現も拡散性も大きく変わるところが、ドキュメンタリーの面白いところなんですよね。

ーー初めてドキュメンタリーを撮った時のことは、覚えていますか?

湘南のホームレスの方に密着する仕事だったんですけど、本当に心が躍りました。仕事でホームレスの生活ができるの? と。めっちゃ楽しくないですか? これをやりたかったんだよ、と思いながら取り組みました。

当時から大切にしているのは、撮影後の関係性です。ドキュメンタリーを撮って終わりではなく、その方と心を通わせた上で、リアルを伝えたい。せっかく出会ったのだからと、ずっと連絡を取っている方も多いんです。一人ひとりの人生って、必ずどこか変で、すごく面白い。人に興味がありますし、真摯に向き合いたいんです。

ーー純粋にドキュメンタリーに向き合う中で、退職を決めたきっかけは何だったのでしょうか。

その面白さや、心を通わせたやり取りは、現場にいた人しか知らない。なのに、社内の会議を経て、現場を知らない人たちの考えで違うものになっていく。「こう思っているはずだ」「この人はこういう意図があるはずだ」と勝手に想像されて、ねじ曲げられてしまう。僕は、取材の結果が歪められることがすごく嫌いなんです。本音で話したことを世の中に出す、それが僕が考えるドキュメンタリーです。その本質を、多くの組織は崩していると思ったことが、ひとつのきっかけです。

ねじ曲げられたことによる違和感は、どこかで伝わると思うんですよ。視聴者が「嘘っぽいな」と疑うようになる原因は、ここにあると思います。

ーーせっかく取材対象者と心を通わせてつくったものが、加工されてしまう。

ボランティアの話と通じますが、よこしまな考えや、「こういう風に見せよう」と思った時点で、取材相手を見下している。対等じゃなくなるんです。せっかく撮ってきたものや人が雑に扱われている感じが、描くものとして“純粋”ではなくなってしまう。

だって、心を通わせて撮ってきたものを、取材対象者と会ったこともない社内の人間に指図されてその通りにするって、「お前は神か!」みたいな話ですよね!

ーーその違和感とは、当時どのように向き合っていたのでしょうか?

普通に、面と向かって訴えていたんです。辞めてから言い出したわけではなく、ずっと言っていた。でも、濁されるだけなんです。あなたは、何を守りたくて動かないんだ? と思い続けていましたね。

決定的だったのは、兵庫県知事の報道です。知事のパワハラ疑惑について、テレビでは行き過ぎた報道がされた。でも、報道と事実のずれも見えてきて、テレビの信頼度が浮き彫りになっていきました。

この時、自分が抱いてきた違和感や、情報がねじ曲げられてきた状況とすごく重なったんです。辞め方はずっと考えていましたが、このタイミングで退職の意志が固まりました。

会社の看板なしで、どこまで通用するか?

ーーNHKを退職すると決めてから独立まで、どのような準備をされていたのでしょうか?

名前を伏せてSNSを始めたり、YouTubeで動画を投稿してどれだけ世間に受け入れられるかを試していました。仕事自体や技術的なところはやっていける実感はあったものの、それは会社の看板のおかげかもしれない。だから、実験したかったんです。

動画の内容は、50代で空手の道場を創設した人が、70歳になるタイミングで、70人連続組み手に挑むというもの。そのストーリーを追いかけました。いろんな武道の達人に教えを請いながら修行して、最後には歴代の達人が見守る中で達成する。コラボしながらチャンネルの登録者数を増やし、最終的には同時接続数が5,000人ほどまで行きました。

70歳の道場創設者というのは、僕の父なんですけど(笑)。実験のために引っぱりだしてきました。

ーーYouTubeとテレビ番組の制作に違いはありますか?

同じですね。自分のクオリティも、十分通用すると思いました。もちろんYouTube的な、コラボで興味を惹きつける要素も必要ですが、結局は中身。全体を通したストーリー性や面白みがないと見ていただけないのは、テレビと共通しています。

僕は三つの局を渡り歩いてきたから、テレビマンとして、確かな技術でコンテンツをつくる自信はありました。ただ、自分のポリシーである、アテンションマーケティング(注意を惹きつけることで、認知や購買行動につなげる広告手法)に寄らない作品で、しっかり見てもらえたのは一つの評価だと思いました。「これならいける」と。

ーー退職前の「100日後に会社を辞めるテレビ局員」という名前でのSNSも、注目を集めていました。

色々やってみて一番反応が良かったのが、Xです。独立後に名前や経歴を明かした投稿が50万インプレッションぐらいついて、多くの方に見ていただけた。

いろんな方からご連絡をいただきましたし、その後、「街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜」や経済動画メディア「ReHacQ」などのYouTubeチャンネル出演をきっかけに、ご連絡いただく機会も増えてきました。

「ありのままで面白い」ギャップのない映像制作にこだわりたい

ーー数ある映像制作会社の中で、井上さん、そして草莽映像の強みは何でしょうか?

根幹にあるのは、「期待値のズレが少ないこと」。これが一番の強みだと思います。盛ったものは期待値が高くなりすぎて、必ずギャップが生まれてしまう。僕は、情報を過剰に加工して切り売りするつもりはありません。その人の本質的な魅力を伝えるために、アテンションマーケティングとは距離を置いています。それが、人や企業の長期的なブランディングに最も役立つと考えているので。

僕と同じところを目指す方々には、気軽にご相談いただきたいですね。

ーー井上さんのような経歴の方に撮っていただいてもいいのか? 自分のありのままを見せて、面白くなるのか? と不安を持つ方もいそうですが。

そんなことないんですよ! みんな、面白いところを持っている。絶対に僕は、誰の面白いところも見つけられるから、本当に気軽に連絡してほしいんですよ。

一人ひとりの人生を、みんな画一的に「普通だ」と捉えているかもしれませんが、普通の人なんか一人もいませんから。絶対に、あなたは面白い。それを隠しているだけ。普通でいたい人も多いから、その殻をかぶっているだけなんです。

ーーどんな人にも、必ず面白いところがある、と。

だから、ご一緒させていただく方々には「理想の姿」を演じたり、良く見せようと繕ったりしないでほしい。飾らない「自然体」を撮りたい。その瞬間のありのままを見せてくれたら、僕はそれを面白く撮れる自信があります。

それに、番組やコンテンツを見ている人の嗅覚は、どんどん鋭くなっている。これからは、リアルがより求められる時代になっていくと思うので、人の「素の魅力」を引き出し、現実とのギャップがない映像制作は、多くの方の力になるはずです。ここに共感いただける方々と、ぜひご一緒したいですね。

つくりたいのは、ディレクターのユートピア。それが、社会を面白くする

ーー井上さんを今、突き動かしている原動力は何でしょうか?

サイトのメッセージとして使っている「映像を通して社会に貢献したい」というのが本心です。テレビ局という大きな組織を離れた今、忖度なく自分の志を高く持って、映像の力を使って社会の役に立ちたい。その決意を込めています。

今では、社会貢献につながるプロジェクトのご相談もいただけるようになりました。それで、自分一人で食べていくのは十分。だけど僕は、もっと地盤を固めて、経済的にも大きくなりたいんです。仲間を引きずり出せるような会社にしていきたいので。

ーー「仲間を引きずり出す」とは?

将来は、ディレクターのユートピアをつくりたいと考えています。優秀なディレクターの中には、テレビという組織の中で虐げられている人もいる。そういう方々を助けたいんです。

ーーさまざまなテレビ局の中で、優秀なディレクターたちが苦しんでいると。

情報がねじ曲げられ、戦意喪失している人、モヤモヤを抱えたままの人が数多くいる。お金や立場のある人が、面白い・面白くないの感覚を押し付けてくる今の構図が、すごく気持ち悪いんです。僕は、局員をちゃんと経験しているからそう言える。取材相手と膝をつき合わせてつくったものを、ポジショントークで強引に方向転換させられてしまう現状は、全く真摯じゃありません。

そんな環境にいるディレクターたちに目覚めてほしいですし、伸び伸びとできるような制作環境をつくりたい。そうすれば、視聴者にとっても面白い動画が増えると思うんです。その方が絶対に良いですよね! だからこそ、ディレクターファーストの番組をつくれる会社であるように、地盤を整えたい。まずは、さまざまな企業様に興味を持っていただけるために、情報発信をしようと動いています。

ゼロからでも、僕たちに丸ごと任せてほしい

ーー今、具体的に動いているプロジェクトはありますか?

企業様の社長の、密着チャンネルを立ち上げました。本格的なナレーションと音楽を入れた、20〜30分ほどの、テレビ番組のようなドキュメンタリーですね。企画から映像制作、その後の運用までを丸ごと担当させていただいています。

他にも大規模なプロジェクトとして、新規メディアを立ち上げるご相談をいただいています。「ReHacQ」を見て著名な方が直接連絡してくださり、コンテンツを統括する立場としていくつかの番組制作に携わることになりました。

ーー最後に、映像制作を検討している方へメッセージをお願いします。

相談のハードルを高く考えていらっしゃる方にも、本当に気軽にご相談いただきたいです。クオリティは、安心して任せてください。僕も、僕の周りにいる人たちもプロですし、誠実に制作と向き合いたい人ばかり。間違ったものはつくりません。

今後は、自分のことを知ってもらうために情報発信もしていきます。YouTubeではちょっとふざけた内容で、「ガセネタ探偵」をやろうかなと。テレビ局員の時代、本当にいろんなネタが来るんですけど、「めっちゃ面白いじゃん!」と思ったものは、大体ガセなんです(笑)。それを逆手にとって、集まってきた情報をもとに本気で検証する。それを見ていただけたら、私がドキュメンタリーをどのようにつくり、どのように向き合っているかも感じていただけるはず。

さらに、ポッドキャストも始まります。僕の考えや人柄も知っていただいて、草莽映像に興味を持っていただけたらと思います。


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この記事を書いた人

井上 大輔のアバター 井上 大輔 映像ディレクター

TBSビジョン→テレビ朝日→NHK→株式会社草莽映像•代表/テレビ歴18年/『クロ現』『Nスペ』『世界遺産』『夢の扉+』など制作/YouTube“経営者ドキュメンタリー”『野望家たち』

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